「野球肘」は大人でも
発症する!?
野球肘とは、野球のボールを投げる動作などを繰り返すことで発症するスポーツ障害です。
肘の内側で起こる内側型野球肘、肘の外側で起こる外側型野球肘、肘の後方で起こる後方型野球肘に分けられます。
野球以外にも、ソフトボール、テニス、やり投げなどで繰り返される「投げる」「ラケットを振る」動作の繰り返しが原因になることもあります。
少年野球などの子どもの野球選手に発症することが多いものの、10代の後半や大人になってから発症するケースも見られます。
野球肘の分類と
復帰までの回復期間
内側型
投球などの動作時に、肘の内側に繰り返しかかる力によって、骨・靭帯を損傷したタイプです。
野球肘の中で、もっとも頻度が高くなります。2~4週間の投球中止後に再開できることが多い一方で、肘の内側の靭帯を損傷した場合には手術が必要になることもあります。
外側型
投球などの動作時に、肘の外側の骨同士が繰り返し接触することで、骨・軟骨の損傷を起こすタイプです。
早期であれば完全な治癒が期待できますが、症状が乏しいことから、少しでも不安がある場合には検査を受けるようにしてください。放置し剥離骨折に至り、手術が必要になることもあります。
後方型
ボールが手から離れてからの牽引力によって、肘後方にある上腕三頭筋腱が炎症を起こしたり、骨端線が損傷したりするタイプです。疲労骨折や骨の変形を起こすこともあります。
2~4週間の投球中止によって復帰できるケースもありますが、手術が必要になるケースもあります。
野球肘の原因
野球・ソフトボールなどでボールを投げる、やり投げでやりを投げる、ラケットを振るといった動作の繰り返しによって、肘に過剰な負担がかかることを主な原因とします。炎症だけでなく、靭帯損傷、骨折などを伴うこともあります。また、全力投球などによって1球(1回の動作)で野球肘を発症するケースも見られます。
その他、誤ったフォーム、変化球の多用、年齢(成長期)、加齢に伴う全身の柔軟性低下などもリスク因子となります。
野球肘の症状チェック
- 投球時に肘が痛む
- 投球直後に痛みが出るが、その後引く
- 痛くて肘をスムーズに動かせない
- 投球数が多い日に痛みが出る・強くなる
- 投球時、投球直後以外の時間帯も痛みが続く
- 全力で投げているのに球威が落ちている
初期には投球をやめると痛みが引くため、翌日以降も練習を継続してしまい日に日にと悪化するというケースが少なくありません。「初めて痛みがあった」時にはその時点以降は投球を中止し、整形外科などの医療機関を受診するようにしてください。
野球肘の検査と診断
問診では、どのようなタイミングでどのような痛みが出るのか、日常生活中で痛みはあるかといったことをお尋ねします。
その上で、肘の動きなどを確認し、レントゲン検査、MRI検査を行い、診断します。
野球肘の治し方
野球肘のタイプごとに、その基本的な治療法をご紹介します。
内側型野球肘
数週間から数カ月の投球中止により、多くは痛みが軽快します。その間は、肘の安静を第一優先とします。
痛みが引いてからは、投球フォームや肘の使い方の見直し、リハビリテーションなどに取り組みます。リハビリテーションでは、肘の内側の筋肉の強化が重要なポイントとなります。
損傷の程度が高度である場合などは、手術が行われることもあります。よく知られたものに、トミージョン手術という靭帯再建術があります。ただし、復帰までに1年以上を要するため、通常はプロやトップアマの選手、あるいは日常生活に大きな支障をきたしている人などに限られます。
また最近では、PRP療法、体外衝撃波治療などが選択されることもあります。
外側型野球肘
投球を中止し、肘の安静を保ちます。数週間で再開できることもあれば、半年から1年かかることもあります。
痛みが引けば、投球フォームや肘の使い方の見直し、リハビリテーションなどを行います。
保存療法で十分な効果が見込めない場合、すでに日常生活にも支障が出ている場合には、手術を選択することもあります。骨軟骨柱移植術、関節鏡視下病巣掻爬術などが行われます。
後方型野球肘
投球中止、および肘の安静に努める保存療法が第一選択となります。痛みが和らいでからは、投球フォームや肘の使い方の見直し、リハビリテーションなどを行います。
保存療法で十分な効果が見られない場合には、手術を検討します。骨棘を切除したり、遊離体を摘出することで、関節の動きの改善、痛みの軽減を図ります。
その他
関節内遊離体や変形性肘関節症が認められる場合にも、投球を中止し、肘の安静に努める保存療法が第一選択です。関節内注射を行うこともあります。
痛みや可動域の制限が続く場合には、関節を形成したり、遊離体を切除する手術が検討されます。
野球肘を予防する
ストレッチ
野球肘は、野球など投球を伴うスポーツをする人であれば、誰にでも起こり得るスポーツ障害です。
以下のようなストレッチを取り入れ、野球肘の予防に努めましょう。
手首・肘の内側
手首や肘の柔軟性を向上させることで、正しい腕の使い方が可能になります。
- 利き手(ボールを投げる側の手)を前方に、水平に伸ばし、手のひらが下を向くようにします。
- 手首を起こし、腕に対して直角にします。
- 反対側の手で、利き手の指を身体側へと引き寄せるようにします。利き手の肘が曲がらないように注意して、10秒維持します。
- 同じ要領で、今度は利き手の手首を内側(下方)に曲げ、腕に対して直角にします。反対側の手で、利き手の指を身体側へと引き寄せます。同様に、10秒維持します。
肩回り
投球時には、肩にも大きな負担がかかります。可動域を広げることで、より全身を使った、負担が偏らないフォームへと近づけることができます。
- 身体の前で、両手の肘を、身体に対して直角に上げます。
- 次に、両手のひらから肘までをピッタリとつけ、肩甲骨を開きます。
- ゆっくりと胸を張る姿勢をとり、腕を後方へと引きます。肩甲骨同士を内側へと寄せる意識で、10秒維持します。
体幹・下半身
正しいフォームで、力強く投げ込むためには、片脚を踏み込む、体重移動をするといった、体幹・下半身の柔軟性や動きも重要になります。
- 床に腰を下ろし、開脚します。
- 片方の脚の膝を曲げ、身体側へと引きつけます。
- 曲げた脚と同じ側の手で、真っすぐになっている脚のつま先に向けて、身体を倒します。この姿勢を10秒維持します。
- 左右を入れ替えて、同じことを行います。